1992年12月17日「ファースト・インパクト――『同級生』」

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1992年12月17日「ファースト・インパクト――『同級生』」

1992年12月17日「ファースト・インパクト――『同級生』」

『同級生』の歴史的意義

 1992年12月,エルフは『同級生』(ASIN:B00008HXDK)を発表する。キャラクター・デザインは竹井正樹(たけい・まさき)。華やかさを持つ竹井の絵は,この後しばらく業界標準としての位置につくことになる。

 しかし何より押さえておきたいのは,蛭田昌人がシステム・デザインしたゲームの構造が革新的なものであったという点である。これを一言でまとめると「AVG系とSLG系という2つの流れが,RPG型のゲームシステム上で融合した」ということである。以下,その意味するところを述べていこう。

 まず,同じ作り手の目から『同級生』をどう見ていたのかの証言として,馬場隆博(ばば・たかひろ,株式会社ビジュアルアーツ代表取締役CEO)の発言を見ておこう。

 ゲームを始めて何時間か後,その構造をおぼろげながらも理解した時の衝撃は,今もはっきりと覚えています。

 それまでのエロゲーといえば,移動先である「場所」に,キャラクターやそのセリフ,そして主人公のモノローグなどいわゆる「シーン」がくっついている構造をしていました。この「シーン」をひとつひとつクリアしてゆくことこそが,ゲーム部分の本質になっていました。しかし『同級生』では,この「場所」を中心としたシーン構成から,なんとキャラクター,つまり「ゲーム内の登場人物」にセリフや主人公のモノローグをくっつけたシーン構成になっていたのです。このため,前者の構造が生むストレスとカタルシスの繰り返しというゲーム展開とはならず,ストレスもなくサクサクと,ある意味淡々とゲームは進み……

(中略)

 『同級生』は恋愛をテーマに据えたため,なんともうすでに従来までのいわゆる,「エッチなアドベンチャーゲーム」ではなくなっていたのです。つまりこの作品が発表された瞬間から,あちこちと移動を繰り返し,エンディングを目指していくというそれまでの「ゲーム」は,それぞれの物語を何度も楽しめ,バーチャルな恋愛や感動できる人生をリアルに,そして感情豊かに疑似体験できるという「なにか」へと変革を遂げたわけです。

『PC Angel』2002年10月号「創刊10周年大感謝特集:遊びまくった10年間 想い出のゲームを語ろう!」64‐65頁より引用

 〈美少女ゲーム〉は伝統的にAVGに属していた。これは『天使たちの午後』の影響下において,困難を達成したご褒美として美少女の画像を見せてもらえる,という「宝探し」の構造で作られていたからである。そのため,目標達成(美少女の獲得)に至る過程には様々なリドル(riddle,難問)が用意される。しかし『同級生』以前には,リドルは直線的に配列されており,1つずつクリアしていくことが予定されていた。つまり,攻略対象となるヒロインが複数いたとしても,1人ずつリドルの処理が行われることになる。

 それが『同級生』において,RPG的な空間の概念を導入することで進歩したのである。『同級生』では,行動選択の場面でドラクエのような街の地図(フィールド)が映しだされ,その中に表示されているプレイヤー・キャラクターを動かすことで駅へ向かわせたり商店へ行ったり,という操作をする。この「フィールド」という空間が用意されたおかげで,複数のヒロインを登場させても同時にストーリーを進行させることが可能となった。

 さらに『同級生』では「好感度」という概念が(表に表示されない形にせよ)取り入れられた。フィールドの中でヒロインと会い,会話を繰り返し,イベントを経て交渉を持つことにより好感度が上昇する。そして,ゲームの終了時点で好感度の数値が一定の基準を上回っていれば,当該ヒロインとのハッピー・エンドを迎えることができる。感情すらも数値化して把握するのは,これまたRPGに由来する概念である。AVGでは,リドルをクリアしたかどうかを判定するのに「フラグ」という概念が用いられてきた(チェック・ポイントを通過したときに旗(flag)を立てる,というのが元々のイメージである)。これにRPG的な数値処理が加わることにより,ゲームシステムは柔軟さを手に入れることになる。

 『同級生』の時点ではナンパものという性格が強かったが,続作の『同級生2』(1995年1月)で物語の純度が増強されたことにより〈恋愛シミュレーション〉の金字塔が打ち立てられることになる。『同級生』シリーズの出現により〈美少女ゲーム〉の基本構造は,AVGRPGSLGの長所を兼ね備えたものになったのである。これこそが『同級生』シリーズの与えたインパクトに他ならない。

 システム上で性質が融合したことの副次的な効果として,「同時攻略」がある。リドルをクリアしていればヒロインとのハッピー・エンドを迎えられるのであるから,終了直前の段階でセーブしておけば1つのセーブデータですべてのエンディングを見ることも出来たのである。後に主流となるビジュアルノベル形式では排除せざるをえない「同時攻略」が可能なのも,フィールド型の効果の1つである(わかりにくいかもしれないが,ビジュアルノベル形式の「ハーレム・エンド」とフィールド形式における「同時攻略」は別物である。「ハーレム・エンド」は分岐の1つとして用意されるものである)。

 つまらない話に思われるかもしれないが余談を。この後しばらく,〈美少女ゲーム〉を形態で分類することが困難になる。当時,パソコン通信のボードは形態によって区分されていた。そのため,新しいタイプのゲームが出てきた時,どのボードに配置するかで軋轢を生じたのである。SLGRPGのボードには硬派なプレイヤーが多くおり,ポルノ性を抱える〈美少女ゲーム〉の話題が紛れることが好まれない風潮があった。中央集権型のパソコン通信では作品ごとにカテゴリーを新設するわけにもいかず,分類不能なジャンルというのは扱いに困ったのである。Nifty-Serveでパソコンゲームを対象領域としていたのはFCGAME(コンピューターゲームフォーラム)であったが,そこから「年齢制限付きゲーム」が独立してFCGAMEXを設立するという大改組が行われたりもした。

 じわじわと勢力を伸ばしつつあったアニメ技術が,このあとすっかり成りを潜めてしまったことを見ても,この作品が業界に与えた影響は計り知れないほど大きなものであったことには,よもや異論はないでしょう(『同級生』には目パチと背景のパーツアニメぐらいしかなかった)

『PC Angel』2002年10月号「創刊10周年大感謝特集:遊びまくった10年間 想い出のゲームを語ろう!」65頁より引用

 他方,『同級生』によって既成の枠組みが取り払われた結果,既存の枠組みに囚われることが無くなり,新しいゲームシステムの考案が相次ぐようになるのである。その最大の成果が『YU-NO』である。

参考資料


編著 おおいしげん(id:genesis
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