1995「秋葉凪樹というミッシング・リンク」

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1995「秋葉凪樹というミッシング・リンク」

1995「秋葉凪樹というミッシング・リンク」

/* 本章は〈乙女のバイブル〉論〈仲良し空間〉論の後に配置 */

 前節では『To Heart』(1997年)が作り出した「学園ラブコメ」路線と,1980年代後半に少女まんがの領域で一つの潮流をなしていた〈乙女のバイブル〉路線との構造的相同性を説いた。では,かなり隔たりのある青年向けの「美少女ゲーム」と女子中高生を対象とする「少女まんが」とが結びついたのであろうか。

 ミッシング・リンク(Missing-link)は,1990年代前半の「青年マンガ」である。

 1980年代においては,青年マンガには2つのモチーフが混在していた。1つが吾妻ひでおに連なる《ロリコン》であり,そしてもう1つがSFに連なる《サイバーパンク》である。この2つのモチーフが邂逅したところに,かがみあきら(1984年8月逝去)が居たと見ることは十分に可能だろう。しかしながら,美少女の裸体描写はイラスト的な評価のされ方をするものであり,コマとコマをつなぐストーリーについてはさほど留意されていなかった。

 1990年代に入った時点でも「美少女の裸体を描く」という青年マンガの本質的目的は維持されるものの,作風が変化を帯び始めるようになる。物語の導入が盛んに行われるようになり,青年マンガの領域でも強くストーリー性を帯びた作品が登場するようになる。

※ この動きを主導したのは,コミックハウス編『ペンギンクラブ』(辰巳出版,1986年創刊)や富士見出版『キャンディタイム』,コアマガジン漫画ばんがいち』,少し遅れてワニマガジン『快楽天』(1994年創刊)……だと思うが未検証

 その中でもひときわ異彩を放っていたのが秋葉凪樹(あきば・なぎ)である。「巧くんの場合」でデビュー(単行本『檻の中から』(ISBN:4896132505)所収*1)。


/* http://d.hatena.ne.jp/./genesis/20060131/p1 からの転記 */

/* ここから『かしまし』に関する部分を削除して書き改める */

[] 秋葉凪樹が織り成していた倫理観の倒錯劇 ~1995年の『かしまし』~

密な繋がりを持つ友人の性が転換してしまった時、あなたはどうしますか?

こんな荒唐無稽な命題を投げ掛けてくれているアニメ「かしまし」が人気を博している。

青ひげノート :: かしましが織り成す倫理観の倒錯劇

 このエントリーを目にして真っ先に思い浮かんだのは,秋葉凪樹のオムニバス作品集『放課後』の第4話「おとこのこ物語」。『ばんがいち』の1995年5月号に掲載された作品で,医学的性転換もの

 秋葉凪樹(あきば・なぎ)という作家は久しく表舞台から遠ざかっており,御存知ない方も増えているかと思いますが,葉鍵系と親和性の高い作品群を時代に半歩ほど先駆けて生みだしていた漫画家です。

 さて,「おとこのこ物語」ですが,次のような出だしで始まります。

長い間 入院していた 友人が クラスに帰ってきた

それは もちろん 喜ぶべき ことでは あるのだけれど……

みゆきちゃん”こと 鹿島義幸(よしゆき)は

本物の “みゆきちゃん”に なって 帰ってきた

つまり――

「女」になって――!!

 ホルモン異常で性未分化だったため「とりあえず」男として育てられていたクラスメイトが,思春期になって女性性となったことへの戸惑い。

 主人公 「まあ おまえ もともと 女みてーだったもんな (中略) エロ本とか おまえ あんま 好きでもないみてーだし……」

義幸の帰還当初,主人公は男性同士として接していた。それが,ホルモン注射によって胸がふくらみ,女の匂いを発し始めた“みゆきちゃん”を避けるようになる。そんな主人公に追いすがり,繰り出される告白シーン。

 みゆき 「おまえはオンナになったって言われて驚きはしたけれど あぁやっぱりそうなんだ……って思った オレはヘンタイじゃなかったんだって」

みゆき(♀)から打ち明けられる,義幸(♂)として抱いていた恋心。この倒錯的告白を主人公(♂)が受け入れていく,というのが本作の主題。

 主人公 「おまえが女になっちまって…… おまえの匂いでどきどきしてるオレがいる」

 みゆき 「オレは女になっちゃったんじゃないよ――」

f:id:genesis:20060131220411p:image

 みゆき 「おまえが好きだから オレは女になったんだ――」

不可避な宿命として「なっちゃった」のではない,主人公を想うが故に,選択的に女性に「なった」のだと告げる。そして《黄色い楕円》シーンに移ります。

 10年前は,このような単純な物語構造でも十分に先進的なものだったのにねぇ。『かしまし~ガール・ミーツ・ガール~』では主人公自身が性転換しており,3名が絡む多角関係で,百合要素も加味。3回転ほど捻りが加えられている。性倒錯は,どこまで進化(あるいは退却)を遂げるものやら。

放課後 (ホットミルクコミックスエクストラ (No.08))

*1:初出は,コミックハウス『ジオトピア』3号(1994年5月?)


編著 おおいしげん(id:genesis
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